橋梁の国際的な専門誌のBridge Design & Enginneringが毎年開催しているFootbridge Award:フットブリッジ(歩道橋)アワードの今年の審査結果が発表されました。
同賞は「AESTHETICS:エステティック=美的」、 「TECHNICAL:テクニカル=技術的」の2部門に分かれています。
さらにスパンに応じてロングスパン(75m-)、ミディアムスパン(30-75m)、ショートスパン(-30m) の3つに分けられます。
これより全部で6つの優秀賞が選ばれます。
こちらに審査結果をまとめたウェブページ(フラッシュ)があります。
それでは順番にご紹介。(写真クリックで拡大)
1.エステティック・ショートスパン:
CASTLEFORD FOOTBRIDGE(イギリス)
(McDowell & Benedetti / Alan Baxter Associates)
H型の斜めの支柱が歩道を支持してます。どちらかというとシンプルなものです。
橋の途中にベンチが設けてあり、単に渡るための橋でなく、そこで憩う、アメニティースペースとなることを目論んでいます。
2.エステティック・ミディアムスパン
Te Rewa Rewa Footbridge (ニュージーランド ニュープリマウス)
Novare Design+Whitaker civil
吊り材は、曲がっている分だけ曲げモーメントが生じ、それに耐える必要があります。
ニュージーランドの風光明媚な大自然の中に置かれています。
コチラのページを参照。
3. エステティック・ロングスパン および
4. テクニカル・ロングスパン
Rhein-Herne Canal Footbridge, ドイツ Gelsenkirchen
シュライヒ・バーガーマン
2賞を受賞しています!さすがシュライヒ、といったところでしょうか。
シュライヒのおハコ、カーブ桁片面吊り。
写真では見えづらいですが、床を吊るメインケーブルがM字状に枝分かれしている所が特徴の一つです。
支柱近くの、通常長くなるハンガー(吊り)ケーブルを短くできる利点があります。(逆にメインケーブルが余計に要りますが。)
5.テクニカルミディアムスパン
Knokke-Heist Footbridge, Belgium
ベルギーの構造設計家:Laurant Ney ローラン・ネイ率いるNey and Partnersの設計。
12mmのスティールシートをハンモックのように吊ったもの。
3スパン連続梁のモーメント図より発想したもので、構造アイデアとしては古くからあるものです。
円弧状に路面がカーブしていますが、この場合、太陽の直射日光を受けて橋自体が熱膨張した場合(=熱応力)、橋げたが風船を膨らませたように横(水平)方向に膨らみます。
一般的な真っ直ぐな橋の場合、熱膨張すると橋が伸びて橋端部を押さえつけます。しかしカーブ床の場合、そのようなことは起こらず、ただ単に横に膨らむのみです。
これより橋げたの端部に、真っ直ぐな橋では通常必要な伸縮継手=エキスパンションジョイントを設ける必要がありません(下図)。
伸縮継手は定期的にメンテナンスが必要な厄介者ですが、本形式ではそれが不要でほったらかしで済む=メンテナンスフリーですからランニングコストの大幅低減が可能な、使い勝手の良い形式だと言えます。
なお、前述のように橋げたが自由に横に膨らむことができるように、支柱は足元をピン接合、またはそれに近い形式(剛性を落とす)とするのが普通です。
本橋もY字支柱として足元を絞り、ピンに近くしています。
6.テクニカル・ショートスパン
Stalhillebrug, Belgium (Ney and Partners)
こちらもローラン・ネイ。
船を通すための可動橋ですが、桁がブランコのように動くユーモラスな仕組みとなっています。
上記の優勝案の他、次点(Highly Commended:高い賞賛)となったものを幾つか紹介。
College bridge(ベルギー)
エステティック / テクニカル・ロングスパン
ローランネイ。S字を描く床面を片面吊りした歩道橋。
ザンネンながらシュライヒに阻まれ次点に。
コチラのページに詳細。
世界のtopではカーブ床は片面で吊るのがもう常識のようです。
カーブした桁は、ある程度の梁成があれば、ねじれて倒れようとする力をリング効果により桁面内の力で処理することができるので、けた両側を吊る必要がなく、片面のみを吊れば事足ります。
支柱にバックステイがない=不要なのがもうひとつの特徴です。
(メインケーブルがその役目をするため)
振動防止のためか、逆に前側(床側)に引き下げています。
床面振動に配慮し、十分検討したが、結果的にチューンドマスダンパーなしで済んだとのこと。
5.エステティック・ロングスパン
esch-sur-alzette footbridge(ベルギー エッシュ、アルゼット)
これまたローランネイ。基本的にはトラス構造ですが、有機的な表情に仕上がっています。
逆L型フレーム:両端部ピンのモーメント図より発想したもの。
エレベータで上まで昇って横に動く、という形式の跨線橋。
ライトアップした内観。基本的に鋼板で製作し、部分的にリブ補強していることが分かります。
コチラのページに詳細。
Lyon Confluence Footbridge フランス・リヨン
エステティック・ミディアムスパン RFR
細い鋼管によるアーチ橋。軽快な、デリケートなものとなっています。
アーチと床版をつなぐ束材は逆V型のパイプ。束はアーチと剛接合となり、上ピン、下固定のハーフ・フィーレンディールトラスを構成します。
(ハーフ・フィーレンディールとはコチラのページフィーレンディールトラスの項参照)
アーチは立面的に傾いており、端部では2つのアーチは一点に介しています。詳細ページ
Glass Bridge
エステティック・ショートスパン ポルトガル・リスボン
シュライヒ バーガーマン
2つのビルを結ぶ連絡橋。
「ガラスの橋」。非常に透明度の高いものになっています。
桁に直交にリング状のフレームが設けられ、これに湾曲ガラスが留められます。
桁は床下をケーブル補強した構造:いわゆる張弦梁状となっています。
張弦梁で必要な束材は、ケーブルをリングフレームに留めることで兼用させ、省略しています。詳細ページ
テクニカル・ロングスパン
Footbridge La Defence パリ、シュライヒバーガーマン
本サイトでかつてご紹介したバルミー橋。技術的にはかなり高級なものです。
カーブ桁片面吊り。逆フィンクトラス。詳細ページ
Forthside Pedestrian Bridge
テクニカル・ロングスパン スコットランド
ウイルキンソンアイア + ジッフォード
ゲーツヘッドミレニアム橋を設計したコンビ。
逆フィンクトラスによるもの。マスト頂部をつなぐ部材が不要なのが特徴です。
この形式は最近イギリスの歩道橋では良く見かける気がします。
桁下に構造体が何も出ませんから桁下高さを楽に確保できることが利点です。
スパン114mでかなり長いものです。 詳細ページ
シュライヒが優秀賞を2賞取ったところが現在の技術(デザイン)レベルの証明でしょうか。
目を見張るのがそれを追うローラン・ネイ。今後のキーパーソンと言えそうです。
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