ぶったまげた(゜□゜) (2)

| コメント(0) | トラックバック(0)
さて、今日は「ぶったまげた!」っていうアイデア、2回目です

ideaman.JPG

('20.9.12 ページ後方に追記を記述しました)


今日はこのような問題です

地面に図のような茶色で示す突起があったとします。まあ左からA,B,C,Dとしましょうか。
これに図の左から棒などを片持ち梁のように伸ばしてA-Dに完全に均等=同じ力をかけるにはどうしたらいいいでしょうか。

CG1.JPG

「カンタンじゃん、棒で押せばいいっしょ(゜3゜)」

はい、都合のいいお答えをありがとうございます。(^^;)

まあおっしゃる通りですが。。。
それですと棒が変形=たわむと力は不均等になっています。
接触する高さが違ってくるためです。

CG22.JPG


「じゃー無限に硬い棒で押せば良くね(゜3゜)」

はい、ありがとうございます(2回目)。
おっしゃる通りですね。それは一つの回答ではあります。
cg24a.JPG


しかしこれは前回の投稿で言った
「ノーアイデア設計」「力ずく設計」「dull solution 」です。
傷ついたらゴメンなさい。



「じゃーどーすんの(゜3゜)」

はいはい。これはこう考えます。

もし仮に各点に同じ力を掛けるたなら。。
梁は逆に突起から反力として同じ力を受けます。
作用-反作用的なものですね。
(なお以下の図では突起と梁は既に接しているものとします。
説明上、離して図化します)

cg28.JPG

同値の集中荷重(≒等分布荷重)が作用した片持ち梁は。。。
二次曲線的な片持ちモーメントを受けます。

荷重を与える突起から反力として等分布荷重を受ける訳です。
cg29.JPG


そうすると。。。このように考えることができます。


通常は 
  (原因)梁が等分布荷重を受ける  
→ (結果)二次曲線状の片持ちモーメントを受ける
            
              これを逆にすると。。。  

 (原因)梁に二次曲線状の片持ちモーメントを生じさせる
→(結果)それが接する材には等分布荷重が!

おお!逆転の発想ですね! コロンブスもビックリ。
卵も立つっちゅーねん。


cg30.JPG
(上図で梁と突起は既に接しています)
このようにすると、各点には同じ力を掛けることができます。



「理屈はわかったけど具体的にどーすりゃえーの?(゜3゜)」

はいはい。それも教えますよ。
けどちょっとクレクレくんになってますよ(^^)

一つの案としては
■片持ち梁を以下のようなユニットにし
■その上下を伸縮可能な材にしておき
■これを電気制御などで押し縮みさせ
■各ユニット間でその伸び量の大きさを二次曲線的に増大させるものです。

cg31.JPG

「ちょっと複雑すぎね(゜3゜)」

あちゃ。痛いところを付かれました。あいたたた(>_<)
そのとおりですね。もっとカンタンにいかないのでしょうか。

はい、ここで先人の素晴らしい解決作をお見せします。



先程のこちら(下図)を考えると。。。
各点ごとに二次曲線状に増減する大きさのモーメント=回転力を与えるわけです。


cg30.JPG


すると。。以下のようなアイデアを考えだした人がいます。

それは。。
■荷重点位置に滑車=プーリーを設け、
■その直径を二次曲線状に増減するようにしておき、
■これに1本のヒモを掛けて、片方から引っ張る

これにより単にヒモを引っ張るだけで、同値の力を与えることができます。
おお、スゴイ。



cg32.JPG


ちょっとよくわからないかもなので別の図で言うと↓
滑車、梁、そしてそれをつなぐ軸の3つが結合している(空回りしない)状態で
滑車に掛けたひもを引っ張るとそれは回転力となり(M-P)、軸を経由して梁の回転力=曲げモーメント(M-G)として伝達されるのです。
。。で、その滑車の直径を順に二次曲線状に小さくしておくのです
pully.JPG

その実例の模型を以下に。。。。(後続の本より)

コチラの模型では滑車は全て同径ですが、片方からのみ引っ張ることで指のように曲げる事ができます
grip1.jpg


そして下図が上記で説明した「二次曲線状に滑車径が変わる」タイプ
grip2.jpg

上図で内側の滑車(プーリ)が二次曲線状に径が変わっています。
外側は解除用で逆向きに回転させるもの。
上図右端は梁に相当するもの=連結ユニットで、ウロコ状に分割されています

そしてこれの実作がコチラ。その名も「ソフトグリッパー」
grip3.jpg

なんかウネウネしたちょっとキモイ感じですが、これまでのしくみより、対象物に接触するときに同じ力=等分布荷重にて接触します。
滑車はウロコのような連結ユニットに隠れて見えない状態です。


■優しく抱きしめて♥

下記はこれらをスケールアップしてなんと人を掴もうというものです


grip4.jpg

(上の把持とは「掴んで持つ」という文字通りのイミ)

同じ力=等分布荷重で接触するとは、どこも同じ力で掴むということであり、どこかだけ強く当たってイタイ、と言うことがないと言う訳です。

つまり「優しく抱きしめてくれる」ってことです♥

上写真で抱きしめられた美人助手も、どことなくウットリした表情になっています(当社調べ)。
今度、誰かを抱きしめる機会がありましたら等分布荷重で抱きしめてください(^^)
あ、体だけじゃなくて心も抱きしめなきゃダメですよ(^_-)ー★


いや~それにしてもよくこんなの考えついたね~

スゲー!ぶったまげた!(゜□゜)




「いや~そうでもなかったアルよ」

ん?その口ぶりは中国人さん?あ、日本人アルか。

これらを考えたのは元東京工業大学教授の広瀬茂雄氏。

同氏は東工大で主にロボット工学を研究。無数のロボットを開発した方で、分かりやすく言うと「機械学科」の方です。

氏は特に「ヘビの運動」「ヘビ型ロボット」の研究をしており、ヘビはうねうね動く=関節が多いことから上記のようなロボットに発展したとのこと。参考ページ


ヘビロボットをうねうね動かすには、その関節部それぞれにどのような力=回転力を与えねばならないか考えざるを得ないからです。

このロボット(ソフトグリッパー)のいいところは、冒頭の問題のような、直線上のものに同値の荷重を掛けるのみならず、既出の写真から分かるように、どのような形でも=任意の形状に巻きついて、同じ力で掴まえるということです。

このロボットを使えば、災害で孤立した人を、消防車などのアームを伸ばして、その先端でこのロボットで人を掴む(抱きしめる)などと言うことが可能です。

広瀬氏はこのように、ロボットにより人を救う、ということを大事なコンセプトとしており、地雷撤去ロボット、災害時救済ロボット、また「3.11」で注目を浴びた、原子炉内を進むロボットなどに尽力しています。
(下記は広瀬氏の著書のひとつ。なお中学生を想定して書かれた本ですが中身は大人が読むべきような内容です)




長くなったので一旦まとめますが、この発明の素晴らしい点、ポイントは

■「○○荷重を受ける梁は●●なモーメントを生じる」
       という普通に知られていることを逆転させ、
  「○○荷重を与えたかったら●●なモーメントをかければ良い」
             と発展、考えたこと

■強制モーメントを与えるために滑車=プーリーを考えついたこと。 そしてその径を変えることで、一本のひもを引くだけで望む力を全プーリーに与えられる
■さらにはその副産物として任意の形状に巻きつけること
などです。
これらそれぞれがそれぞれすばらしく、とても常人には思いつけないものです。

スゲー!ぶったまげた!(゜□゜)(2回目)




これまでのことから明らかなように、人が手で何かを掴んでいるときには指の筋肉に二次曲線状に増加していく片持ちモーメントが生じていることになります。

squeeze.JPG

正確に言うと骨と筋肉のペア=偶力でモーメントを生じますからその両者に二次曲線状に増加する力(引っ張り、圧縮)が生じている、となります。


また冒頭の問題の実例としては、鉄板などをロール=伸ばすときのローラーなどが上げられます

roller.JPG

もし圧延のローラーが壁からの片持ちだった場合に
普通のローラーだと、ローラーが片持ちモーメントを受けて外側に変形してしまうので出来上がりの鉄板は外広がりのラッパのような形となり、どこも同厚とはなりません(下図左)



ですので、この場合、ローラーを、変形したときにまっすぐなるように、予めラッパ状にしておけば、結果として出来た鉄板はどこも同厚となります。
ちなみにこの場合、応力=モーメントは二次曲線ですが変形は三次曲線ですね。

なおこれは私の案であり、実際にこのようなことをやっているかは不明です。



('20.09.12追記)
冒頭の問題の実例として、以下のようなものもあります。

飛行機の車輪(降着装置と言う)で、タイヤが多数ある場合、各タイヤに均等に力を伝えないと、どれかのみが先にすり減ってしまいます。

そうならないように各タイヤに同じ力Pを渡す場合には、それを束ねる台車には今回の例のように片持ちモーメントが生じるでしょう。

HIKOUKIASIM3.GIF

一般的な旅客飛行機はタイヤはせいぜい4本=2×2列でしょうが、軍用機のような大きなものの場合は上記のようにタイヤが増えるでしょう。


または建築の例としては、下図のように、下部がすぼまった建物があったとします。
これの基礎が杭基礎だった場合、杭の配置から結局基礎は広げないといけないかもしれません。

この場合にも全杭に同じ力を渡すなら、基礎底版には片持ちモーメントが生じる、となります。


SUBOMARIM2.PNG

「どっちも真ん中から飛び出てるんだから片持ちモーメントが生じるに決まってるじゃないか」

とお思いだったら本ページを頭に戻って読んでいただくことになります(^^)
冒頭で述べたように、片持ち材の剛性が足りなければたわんでしまい、中央に近いものに集中的に力が生じます。

完全にすべてのタイヤまたは杭に同じ力を割り振ることができたとき=等分布に載荷できた時のみに放物線状の片持ちモーメントが生じます。

(追記ここまで)


今回の投稿も長くなりましたがいかがでしょうか。

なにはともあれ、世の中には常人には思いつかないほどのアイデアを考えつく人がいるものです。

スゲー!ぶったまげた!(゜□゜)
(今日3回目)



2回に渡り、素晴らしいアイデアを紹介しました。
次回は「じゃーいいアイデアを出すにはどうしたらいいか」を紹介します。(時期未定)

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.archstructure.net/cgi-local/mt/mt-tb.cgi/62

コメントする