諸事情により、長らく更新してませんでした。なんと1年も!
ススススミマセン。
さて、今回はドイツ、フランクフルトに立つ、ユーロの番人たちが住まう欧州中央銀行:European Central Bank:ECB ビルです。ツインタワーの間にアトリウムを抱く構成。
設計はWOLF D PRIX ヴォルフ・プリックス率いるCoop Himmelb(l)au クープ・ヒンメルブラウ。
構造はBollinger Grohmann ボリンガー・グローマン。
どのような流れで設計されたのでしょうか。
■ブロック遊び
国際コンペだった本ビル。後に当選することになるヒンメルブラウのプリックス、よっしゃオレこそがユーロの顔、作ったる、腕がビンビン鳴るぜと鼻息荒くしていました。
なおコンペでは「テレビ映え」する形態となるよう求められていました。
そりゃあそうでしょう。
毎夜のTVの金融ニュースでユーロが上がった、下がったと言ってはその度に美人ニュースキャスターの後ろに本ビルがモニターに大写しになるのです。
「映える」ルックスの必要がありました。
そんな中、部下たちが下準備として必要な床面積18万m2の構成をまとめると。。。なんと巨大な墓石のようなカタマリとなってしまいました。
なんじゃこりゃ!?
これじゃーとても映えるどころじゃないじゃないか。
いいか、こういうときはこうするんだ、とそのカタマリを以下のように2つのブロックに切り分けました
①まずは包丁でナナメに切って2つに(上段左、中)
②左右の位置を逆にして背中合わせに(上段右)
③片方はひっくり返す (下段左、中)
④さらに2つのブロックをそれぞれひねる(下段右)
ブロックの間は豊かな建築空間となるアトリウムとし、その両端面はガラス壁でふさぎました。
なんか子供のブロック遊びのようです
こちらが分かりやすいですかね↓
これにより他のビルとは異なる、個性的な表情のブロックとなりました。
このようにブロックを切り分ける方法は古今東西の建築家が用いるテクニックです。丹下健三氏の東京都庁もその例です。
一つの塊とした場合に比べて圧迫感、威圧感を和らげる効果があります。
さて、そのように全体のボリュームが決まってボリンガー事務所が構造検討を始めたのですが、単に2つのボリュームだけでは強度不足だと判明しました。
風圧力に抵抗するために階段、EV部などを用いたいわゆるRCコアを設けていたのですが、強度が足りず、その幅がどんどん増え、オフィススペースを侵食してしまいました。
あちゃいかん、どないしよ~(ドイツ語で)
これへの対処法として両棟間のアトリウムを立体的につなぐ1本50m,100トン!の斜材14本でメガトラスを作ることとしました。
これにより今や両棟は一体的に働くため、斜材がない場合に比べてRCコアの幅は1/3の6mで済み、広いオフィススペースを確保することができました。
(平面図。左:両棟それぞれで抵抗させるとRCコアが大きすぎ
右:メガトラスで両棟を結ぶとコアは約1/3の幅で済んだ)
(メガトラスのシミュレーション。左が序盤、右が最終案)
このようなトラスは言ってみれば建物内にタテのトラスを作っているようなものです。RCコアがトラスのタテの上下弦材となっているのです。
上図で薄くグレーに描かれていますが、アトリウムは耐火上の要求により、全高さを床で3分割する必要がありました。そこでこの床に入る成2mの梁もトラスの束材として利用しています。
このような、2本のビルをメガトラスで結合する形式は日本だと東京、中野にある中野坂上サンブライトツインが同様です。
構造設計はSDG渡辺邦夫氏。コチラに詳細既述があります。
ただこのようなトラスにすると三角形ですから建物全体がカタくなります。日本では超高層は「柳に風」のように柔らかくするのが通常ですが、それ比べて地震の力が大きくなりますから注意が必要です。
■妻ガラス壁
本体部が何とかなったら今度はガラスファサード。両棟をつなぐ妻面です。しかし早速、次のような問題が起こりました
このガラス、両棟の稜線(下図点線)が平行でないために、この2つを単純に結んで行ってしまうと平面にならずねじれた曲面、いわゆるHP曲面になってしまうことになりました。
(両棟のコーナー柱が平行でないため、ガラス壁がねじれた曲面に)
そうすると納まりが複雑になり、またガラスもこれに対応できるように形状が様々なパターンとなってしまいます。
要するにお金が掛かりすぎるということです。
困った。どないしよ~。
この問題に対して、非常にカンタンですが卓抜したアイデアを用いました。
「一本、線入れて面を分割したら良くね?」
おー神アイデア!スゴイ!
どういうことかというと。。ねじれた曲面だったHP面に。。(左)
対角線にナナメに線をズバッと引けば、2つの三角形の平面になる、ということ!(右)
おおスゴイ!
上写真でナナメに走るのがその対角線部分。
三角形はいかなる場合も平面ですからねじれ曲面とはならず、カンタンとなります。
カンタンなアイデアで。。大幅にズバッ!とコストカットしました。
値千金のアイデア。いや値千「ユーロ」です。
なおこのガラス面の骨組みは、タテヨコのいわゆるラーメン状となっており、建物本体からは自立しています。
ガラス重量=鉛直力はこのフレームで負担し、風圧力の横力は本体へ預けています
Coop Himmelb(l)auはオーストリア拠点の設計事務所。
社名は青い空、雲のような建築という意味のダブルミーニング。
つまりダジャレ。
Himmel=雲、空
blau=青blue bau=建築 バウハウスのバウ
とうこと。
それゆえLにカッコがついているそう。(E)カッコイーね~
A(C) エーカッコしいだね(^^;)。
で、Coopは日本で言う所の工務店の○○組みたいなもの。
イマドキで言うなら乃木坂、欅坂の「坂」です(ちょっと違うか)
近年は中国などにも多数の大規模な実現案があります。
こちらは韓国、釜山のシネマセンター。巨大なキャンチ。
同社のデザインの特徴は社名のとおり雲のような不定形なもの。「直角が少ない」形態です。ちょっと目に刺さる、目に痛いカンジ。
好みが別れそうです。
こちらを見れば実感するでしょう。
フランス、リヨンのコンフリュアンス博物館。
ヒンメルブラウ。かつてはZ.ハディッドらとともにデコンストラクティビズム:脱構成主義と呼ばれました。
さて このECBビル。どんな人が勤めてるんでしょうか。そしてそのトップ、総裁は日々どんなことに悩んでるんでしょうか。ECBの総裁なら我々からは完全に雲Himmelの上の人。いやそれどころか成層圏より上かもしれません。
総裁もコンビニで110円(円じゃなくユーロか)のプリンと160円(1.3ユーロ)のヨーグルト、どっちにしようかと悩むことがあるのでしょうか。
それと、こんな重要な建物を設計するとなったらそれなりの資本金を持つ会社じゃないと拒絶されそうです。それを考えるとヒンメルブラウ、ボリンガーとも個人の名を冠した会社ですから大したものだと言えます。
あと、こんだけ大きな建物ですと我々がフダン使っている数字の単位とは文字通りケタが違いそうです。
我々(私だけ?)が使う力の単位は通常「kN」キロニュートンですが、こういう建物だと「MN」メガニュートン=1000kNなのかもしれません。
いや、もしかしたら更にその千倍、「GN」ギガニュートン!?
ニュートンもビックリ!
メガ、ギガ?なに?スマホのデータ使いホーダイの話?
いずれにせよこういう建物だと細かいことにとらわれていてはいけません。大局的に、大きな視点から物事を掴む力が必要でしょう。
そうするとやはりメガニュートンレベル、有効3桁などで力をガバッと大づかみすることとなるでしょう。
ECBの総裁もきっとメガレベルでお金の流れを掴んでいることでしょう。。
(ウマいことまとまった(^^)v
- 関連サイト -
ボリンガー・グローマン
|
Coop Himmelblau: Complete Works 1968-2010
¥15,348 Himmelb(l)auの完全作品集。タテ40cmのデカい!本。 ちょっとお高いか。 |
|
Detail Engineering 3: Bollinger and Grohmann
¥5,418 Detail社の構造事務所特集のbollinger社のもの。 表紙はSANAAのラーニングセンター。 |
追記:ECBビル。建物全重量は2700MN≒3GN。。だそうです。
やっぱり。(^^)v
コメントする