Marc Mimram橋梁デザイン教えたる!

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エンジニアー・アーキテクトとして知られるMarc Mimram、ドナウ川の新橋。

Mimram氏が橋梁デザインの真髄をぶちかまします(^^;)

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パリを拠点に、世界でも数少ないエンジニア-アーキテクトとして知られ、パリ、ソルフェリーノ橋の設計で知られるMarc Mimramマルク・ミムラム氏。


オーストリア、リンツ(Linz)でドナウ川にかかる道路橋を完成させています。


Marc Mimram氏の作品集

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先端が細っていく、恐ろしく美しい(?)アーチが床面を吊っています。三日月みたい。
中央にはv支柱。
アーチとは言いましたが。。これは「形状の上のみでの表現」です。

アーチは圧縮力で力を負担しますが、本件では柱がアーチ頂部(アーチクラウンという)位置にありますからそうではありません。
アーチに見えるのは構造的には引張力を負担する「吊材」です。

アイデアの出発点はこちら。。。
この世界にいてこれを知らなかった「モグリ」です。

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「フォース橋」(右)の構造モデルとして有名な写真。
「ダブルキャンチレバー」と呼ばれます
左右の人の腕には引張力がかかり、これにより中央の人を支えています


翻って本橋。構造体は(吊り)アーチとV支柱のみで構成はシンプル。
一般市民であってもどう力が流れているかわかるでしょう
Readableリーダブル=(力の流れが)読み取れるものです

シンプル、リーダブル、は優れた建築の条件です。
それがゆえ、市民のアタマに定着しやすいためです。

「ストラクチャーから
      『重力の歌』
    が聞こえてくるようでなければならない」

師匠、表現がスバラすぃっすね-。詩人すか。

美しい言葉にアタマがクラクラするのも気に留めずMimram氏は続けます。

「橋を設計する際は与えられた条件、特にランドスケープ(=敷地)に注力する。
今回の場合は2つに注目した。ひとつはドナウ川の状況、もう一つは隣接する既存の吊り橋だった。

1つ目からは全体のスパン割り、2つ目からは既存のそれに調和するようにこちらも吊り橋とすることとした。」


「橋梁設計はそれが建つ地に固有なもので、『標準設計』などありえない。
これよりすぐれた橋梁は
たとえ10mでもその地から横にずらせないものだ!

その地に根ざすからわずかでもずらせない!
その値に特有の解なのだ!
至言ですね。




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センセイ、このような規模でどのような設計、計算をするんすか(フランス語で)。

「まずはだいたい3Dの計算モデルを作る。すべての幾何形状=ジオメトリーが盛り込まれていてこれにより構造体と対話することができる。」

「初期設計がだいたい固まったら次は木製のモデル1/10や1/500を作ってアーチのカーブの具合や光の反射、影具合を確認する。このモデルは風洞実験にも使う。

手書きスケッチからコンピューターモデルに至るまで、我々はストラクチャーの繊細さを確かめておきたい。たとえ8000トンの重さの橋でも、だ。
そしてもちろん工場製作、鉄骨エレクション(建方)にも頭を巡らす。設計中は(予定地の)川の上をボートに乗ってその姿を想像した。」


弁が立ちますね。センセイー。


。。で、この橋、どうなってんスか。
アーチにはどんな力が作用するでしょうか。考えてみます。

本橋は基本的には吊り構造です。
さっきのフォース橋の写真もいいですが、こちらの絵のほうが分かりやすいでしょう。
両手がアーチに相当します。うまいこと両手がアーチ状にカーブしています。

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「のび太、廊下に立っとれ!」
今やったらパワハラ、教育委員会案件です。ありえない。
時は流れた。昭和は彼方へ。

ムダ話、挟みました。

さて、アーチ先端に下図、左半分で示すように床の重量Wが作用すると、吊材であるアーチには下の緑線で示すようにV型を基点にして一直線に引っ張られます(T)。

しかしアーチはカーブしているから一直線ではない。
これより下図着色部のように、直線とアーチの離れの距離に応じた曲げモーメントMが作用します。このぶん、構造体が要るわけです

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だったらそれと同じような形状のアーチとすればいい。
そしてそうした、というわけです(上、右半分、下写真)

アーチは実際にはL型断面を2つペアにしています。

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アーチがダブルになっているのは?

一般的にはアーチの横つなぎ:横門構がないときにアーチをダブルにして横方向座屈を防ぐのは常套手段です。
しかし本「アーチ」は圧縮でなく引張だからその必要はありません。
アーチの見つけ幅を薄くしたかったのでそうしたのかもしれません。




先の解説図より、構造的理想(緑の直線)と実際の構造体:アーチがずれています。これによりズレのモーメント(偏差モーメント)が生じます。

これは構造デザインの一つの鉄則と言えます。

「真の美は構造合理性の近傍にある」と喝破した構造家の坪井善勝氏。

かの代々木体育館の屋根は構造理想と丹下氏の美的理想にズレがあったため、それを叶えるために曲げモーメント負担可能なH鋼(曲げ材)を用いました。
つまり偏差モーメントを処理しています。

本橋も美的理想:アーチと構造理想:直線状に差があるため、生じたモーメントをアーチで負担させているのです。

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構造理想と美的理想が一致することはまずありません
構造理想ですとプラトン幾何学になってしまい、面白くないからです。
そのような時は偏差モーメントを取れる曲げ材を使う。。。

さらっと重要なエッセンスを披露しました。
今度アイデアに詰まったら思い出してください♪

(曲げ材:曲げモーメントを負担できる材。「曲がった材」、という意味ではありません。若い方のために♪)



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蛇足ですが、このMarc Miram氏。実はワタシ、どう読むか分かりません(><)

本サイトでは今までマーク ミムラムとかいてましたが。。
Marcの「ar」はアーでなくアル、かもしれない。
さらに仏語では最後の子音は読まない(parisのように)
なのでまず「名」は「マル」さんかもしれません。

次にMimram。
imは仏語で「アン」と呼ぶことがあります
Fantasie Impromptu ファンタジーアンプロンプチュ 
ショパンの幻想即興曲

で、また最後の子音mは読まないかも。
そうすると「マル、マンラ」さんかもしれない。。。

wikipediaにも読み方は書いてなかった。。
youtubeなどで調べようと思います。

ちなみにフランス語では最後の子音は読みませんが
逆に最初が「H」の時も読みません(声に出さない)。
Hermes ×ヘルメス→○エルメス
Hero  ×ヒーロー→ ○エロ


「最初のエッチのときは声を出さない」



話がアーチのようにぐいーんと(シモの方に)曲がりましたが、Mimram氏、そんなの構わず持論をぶちます。

「建築(橋梁含む)とは
    変形(変容)のアートなのだ。」

「鉄鉱石より鋼が抽出され構造体(建築)となる。すべての変容(=建築創造)に我々は責任を持たなければならない。」

「その場の状況を変えるのだから
      我々には大きな責任があるのだ!」


構造的にどうのこうのがかすむくらい、Mimram氏の持論が見事。

自らの仕事への信念、責任感を力強く、高らかに謳い上げる男。

女性社員の自分の上司がもしこんなだったら。。。
完全にメロメロ。目がハート❤。

確実に口説き落とされてるでしょう。




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(21.12.29追記 「マーク・ミムラム」で大丈夫でした(^^)v)


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