■ トゥリア川
カラトラバのトレードマーク:斜めアーチ橋
コレでアナタもカラトラバ・アーチがわかる! |
サンティアゴ・カラトラヴァ / ヴァレンシア、スペイン
Alameda Bridge / Santiago Calatrava / Valencia |
カラトラヴァの故郷:スペイン、ヴァレンシアに架かる アラメーダ橋 は、もはや氏のトレードマークのひとつとも言える斜めアーチ橋です。 強烈なインパクトのこの橋…、コレは一体どういうしくみになっているのでしょうか。。。?? |
■ トゥリア川 |
ヴァレンシアを流れるトゥリア川は、かの地の長い歴史において、 重要な存在でしたが、大雨の時にたびたび氾濫するのが市民の悩みの種でした。 そして、1957年に再度起きた大洪水を機に、ついに市当局は河川の水をせき止めてしまうことを決定しました。 その結果、トゥリア川は干上った水のない川となってしましまいました。 ちなみにその後、川底には植栽がなされ、ヴァレンシアを貫く「緑の川」となりました。 |
このかつての川底に、市当局により地下鉄の駅と、その上に架かる道路橋が計画され、コンペが行われました
。その結果、地元出身のカラトラヴァの案が優勝となりました。 なお、本橋は、地元ではもっぱらカラトラバ橋と呼ばれています。 |
■ 斜めアーチ:その歴史:「オーステルリッツの雪辱」 |
今でこそ、この斜めアーチ橋は技術者の間ではある程度知られています。 それもそのはず、アーチ橋のアーチが橋げたの片方にのみ取り付いており、さらには
それがナナメに傾いているのです!(図1,2) この斜めアーチが世間に知られることとなったのは、 パリのセーヌ川に架かる オーステルリッツ橋という橋のコンペです。 (図2) この形式でコンペに挑んだカラトラヴァは、見事、優勝を射止めましたが、 あまりにも大胆な案に、フランスの保守的な官僚はビックリ!してしまいました。 最終的に、この案は廃案(ボツ!)となってしまい、その後、別の設計者による何の変哲もない橋が完成しました。 今回のアラメーダ橋は、そのオーステルリッツ橋とほぼ同規模で、スパン130mの大規模な道路橋です。 (いわばオーステルリッツのリベンジ。) ちなみに実現1作目:デビュー作はスペインの小さな町:リポユにかかる デヴェーサ橋という小さな歩道橋で、 カラトラバはこれをいわば実験作とし、十分イケルと確信したようです。 |
図1.アラメーダ橋の断面 A :アーチ B :橋体(デッキ) 断面は一般の橋とはかけ離れた、非常に特異な形態をしている。 図2.オーステルリッツ橋 |
■ 斜めアーチのしくみ |
それではこのアーチ、いったいどういうことになっているのでしょうか。 |
1.橋げたは水平梁 |
本橋の断面は図1、図3のような形態をしており、 アーチは水平面から70度の角度にあります。 まず橋体には自身の自重、及び車などの重量Wが下向きにかかります。 これにより斜めの吊材には吊り上げ力:引張力が作用します。 (図3) |
吊材は斜めであるため、この斜め方向の引張力により、 橋桁はヨコ方向に引っ張られます。 コレにより橋全体はあたかもヨコ方向の力を一様に受けているような状態となり、 橋げたに水平のモーメントMHが作用します。(図4) このモーメントに対し、橋げたはその幅Bを梁の成とした水平な梁として作用し、 この力に抵抗しています。幅Bは十分あるので容易に抵抗できます。 |
図3: 斜めアーチの力 1. :橋自重などによる鉛直力 Wが作用 ※吊り材のナナメ引張力Tは、鉛直と水平の成分: TVと THに分けられる。 TVは W と釣り合っている (TV=W) のに対し、TH とは釣合うものがないため、これが橋体に作用する力H となる。すなわちTH=H 。 |
図4: 水平梁の作用 横力Hが橋全体に作用することで
橋には水平方向のモーメントMHが作用する。
コレに対しては橋桁が、その幅B
を梁せいとする 水平な梁として作用し、抵抗する(MR)
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2.トルションチューブ |
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3.吊材は座屈防止、変形してアーチの力が減る |
また、吊り材は単に橋重量を吊り上げるだけでなく、 アーチが圧縮力を受けて座屈しようとするのを拘束し補強します。(アーチ面内、面外の両方向とも。) また先程のねじれ力により、橋全体はねじれて、最初の位置よりもアーチは少しだけ立った、
垂直に近い位置に動きます。 つまりアーチはデザイン的理由で傾けてあるのではなく、構造的理由により傾いています。 |
図7 アーチの変形の効果 ねじれ力mt
により、 橋体は回転し、アーチは少しだけ立った位置にくる。
これによりアーチの高さが増す もしアーチが垂直だったら、回転によりアーチ全体高さは減り、 アーチ軸力は増加するので危険である(右図) |
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■ カラトラヴァの独創性:斜めアーチ橋考案分析 |
カラトラヴァといえば、彫刻的な表現形態がいつも取り上げられます・ 過去の講演会などによると、氏は「橋体の、あまり有効に使われていない強度 :ねじれ強度に着目した」と言っています。(トルションチュ−ブの活用) なるほど、一般的にはこのねじれ剛性や、橋体の水平梁としての強度は、 強風時などには発揮されますが、常時状態においては、言ってみれば遊んでいるといえます。 翻って本橋ではねじれ剛性、水平強度は、常時状態においても、なくてはならない主要な要素です。 通常使われていないものを利用してみる - これは橋の設計のみならず、 全てのビジネスに転用可能なコンセプトといえるでしょう。 |
また、氏は大学の修士課程で航空力学を専攻していますが、これも無縁ではないでしょう。 それは飛行機は飛行中に常に翼や胴体にねじれ力を受け、それに抵抗させることが重要な問題だからです。 逆に建築、土木ではねじれ抵抗というのはあまり重要視されません。 それは、もともとねじれが発生しないように骨組みが計画され、ねじれに頼らない計画が基本だからです。 |
■近作、 マネする技師も |
最近ではスペイン、ビルバオのカンポ・ヴォランティン橋、 フランス、オルレアンズのヨーロッパ橋 などに斜めアーチが採用され、作品ごとに改良がなされています。 特にヨーロッパ橋はスパン200m、吊材はケーブルの、大変エレガントなものです。 |
また最近ではこの斜めアーチをマネする技師もでてきました。 まあ、カラトラヴァは特許をとっているわけではないでしょうから、これを止めることはムリでしょう。 しかしマネしようとする者は、彼自身の良心と、技師としての誇りに、自問すべきと思われます。 少なくとも、その発明者に敬意を払うべきでしょう。 |
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'04/09 upload |