グラスゴータワー

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銀色の「風見鶏」 リチャード・ホーデン(基本コンセプト)、ビルディング・デザイン・パートナーシップ(実施設計)
/ ペーター・ヘッペル、ビューロ・ハッポルド / グラスゴー

Glasgow tower / Richard Horden, Building Design Partnership / Peter Heppel, Buro Happold / Glasgow, Scotland, GB
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photo:Colin J. Smith:scotpix.biz(4枚目のみ)

タワーはあらゆる方向から風を受けるため、不利益がないよう、通常円形などの点対称な平面形となります。
ではもし、タワーが”風見鶏”のように常に風上に向かっていたら。。。スコットランドでの解答です

本サイト内関連ページ:タワー topics:新東京タワーのデザインに安藤忠雄氏ら

■風に向かってタワーが回転!

イギリス北部、スコットランド最大の都市、グラスゴーに立つグラスゴータワー
市を流れるクライド川の川辺に立つサイエンスセンター(科学博物館)の一角をなす展望タワーです。

高さ100mのこのタワー、なんと"機首"が必ず風上に向くように タワ−全体が風見鶏のように360°あらゆる方向に回転できるという、 非常に特殊な仕組みとなっています

これにより、全体が受ける風圧力を大幅に減らし、 アスペクト比=塔の幅-高さ比を1:13と非常にスレンダーにしています。※1

また、常にある特定の方向からしか風を受けないため、その平面形は受ける 風圧力に特化した形態:涙滴状の流線型となっています。(図1,2)



図1. タワー平面と風の流れ


一般の円形平面では前方で風がぶつかり、また後方では渦が生じ、 風の抵抗=受ける風圧力は大きい(上)
イルカや飛行機の翼のような流線型: 翼型(AEROFOIL)だと、 風がスムーズに流れ後方に渦は生じず、抵抗は小さくなる(下)

※1一般的なタワーは1:10程度で、それの60%


■流線型をした平面

ある一定の方向からのみ風を受ける本タワーは、言わば飛行機の翼が地面から突き出ているようなものです。

主構造は非常用のらせん階段を内包する階段シャフト、飛行機の翼のような2つの アウトリガー (安定柱)より構成されます。
アウトリガーは飛行機の翼のように風の流れを整える整流翼の役目を持っています

これらの3つはパイプのつなぎ材でトラス状に強固に連結されて一体化し、 風圧力に抵抗するトライポッド=3本脚構造を構成します。※2

展望室へのエレベータは階段シャフト後方のレールを走行します。

最後尾には"テイル"と呼ばれる翼材が付いています。
テイルはちょうど飛行機の尾翼や、船の舵のように"機首"を風上に向け、"機体"を安定させるのを助けます。

タワーは基本的に電力で駆動させるのですが、 テイルのおかげでタワーはまさに風見鶏のように勝手に風上方向へ回転するので、使用電力はわずかで済みます。

タワー頂部には、ヘリコプターやロボットの頭を思わせるGRP=ガラス繊維補強プラスティックによる展望室があり、 その後ろには、高さ25mのアンテナがそびえ立っています。




■ターンテーブル

これらの上部構造は地上レベルで直径10mの鉄の回転台:"ターンテーブル"に接合されています(図3)

ターンテーブル周囲にはいくつものローラーベアリングが配置されており、これでタワーを回転させます。

これらのローラーはターンテーブル外周をなすRCの強固な梁:"リングビーム"に接合されています。
リングビームにはタワーの転倒力により巨大な水平力が作用します。

リングビームはV型に配置されたナナメ柱で支持されており、この柱でその巨大な水平力を負担します。

■基礎:エンピツの先のようなルートコーン

ターンテーブルの下には"ルートコーン"(円すい状の根っこ)と呼ばれる、 極厚の鉄板を曲げて作られた基礎構造が設けられています。(図4)
ルートコーンは最下端に向かってどんどん細くなっていく、 要するにエンピツの先のような形です。

全長15mのルートコーンは直径が減るにつれて鉄板の厚みを増し、 下3mはキャスティング(鋳物)による鉄のカタマリ!となっています
そしてその最先端:一点でタワーの全重量:550トン!を支持しています!

またリングビーム同様、転倒による巨大な水平力に抵抗します。(図5)


■空力学エンジニアリングの結晶

建築物と、車、飛行機などとの大きな違いは、 「建築は動かない」ということです。

その境界を超えてしまった本タワーは、タワーそのものが 「空力学エンジニアリングの結晶」という展示物となって、 サイエンスセンターでの使命に一役買っています。

図2. タワー平面

a:非難用らせん階段 
b:階段をカバーするアルミカバー:階段シャフト 
c:アウトリガー  d:テイル  e:2基のエレベーター  

※2タワーが立体的に安定するには
脚は最低3本必要。

図3. タワー基礎部:ターンテーブル

a:階段シャフト  b:アウトリガー  c:リングビーム 
d:ローラーベアリング e:斜め柱
f:ターンテーブル  g:展望エレベータ通過用の開口

   

図4. タワー基礎部:ルートコーン

a:リングビーム  b:ローラーベアリング  
c:ターンテーブル d:ルートコーン 
e:RC基礎 f:展望エレベータ  g:アウトリガー  

エレベータに乗る前に、乗客は 本タワーがルートコンーン最先端の一点!で支持されていることを目の当たりにする

図5. タワー基礎にかかる水平力

基礎の高さを1、地上長さをβ、その和をαとすると、 基礎上端:上の手にはPのα倍、下端:下の手にはβ倍の大きな力がかかる。
その力を小さくするには基礎高さ:両手の間隔を広げる必要がある     P:タワーにかかる全風圧力

関連リンク

Buro Happold

ビューロー・ハッポルド: 本タワ−の構造設計。
ロンドンミレニアムドームや、六本木に建設中の東京ミッドタウンの ガラスの大ひさし(右)も担当 (Happoldのサイトのproject > all project > roppongi canopy )

Peter Heppel

ペーター・ヘッペル 本タワーの空力学(aerodynamics)を担当。
ロジャースやピーターライスなどの建築界のビッグネームのみならず、 NASA!とも協働した、空力学が専門の凄腕エンジニアー

Flow Solution

本タワーの風の流れ:流体解析に用いられた解析ソフト。
飛行機やヨット、イルカ!など異分野の解析が紹介されており興味深い。

books

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オススメ度
★★★★

洋書
Steel and Beyond:
New Strategies for Metals in Architecture
 Annette Lecuyer (著)     
"steel"をテーマにした本:英国ミレニアムプロジェクト多数

"steel"をキーワードに、世界の近作を紹介しています。

紹介作はロンドンの観覧車ロンドン・アイ , 同じくテート・モダン前のミレニアム・ブリッジ,   ロジャースのミレニアムドーム、ゲーツヘッド橋英国グレートコートなど英国ミレニアム事業のほとんど、 およびグラスゴー・タワー、伊東豊雄のメディアテーク、ゲーリーのグッゲンハイムなど。

また、単にこれら実現作の紹介のみならず、タイトルが示すように、steelと現代建築の関わり、 今後の方向性などについても論じています。

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'06/12/09  upload

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