斜め格子を可能にした「しかけ」 | ヘルツォーク・ド・ムーロン / 竹中工務店 / 東京 Prada Boutique Aoyama / Herzog & de Meuron / Takenaka Corp. / Tokyo |
ひし形の斜め格子が強烈な印象の、ヘルツォーク・ド・ムーロン設計の プラダ ブティック 青山店。 ジツはコレ、日本では通常不可能な構造です。それってどういうこと。?? |
■ 表参道:有名建築ストリート 表参道および青山は東京でも、銀座と並んでもっともファッショナブルで、美しい女性が行き交う街です。 それは、国内外の有名建築家の設計による高級ブティックのフラッグシップ・ビルが建ち並ぶ、 「有名建築ストリート」だということです。
ざっと挙げると。。。 この建築ストリートの末端位置に立つ、プラダ・ブティック 青山店。 ■斜め格子 外見を特徴づける斜め格子は単なるファサード:飾りではなく、建物を支持する主体構造です。 斜め格子構造は古くから海外の高層ビルなどに用いられてきた構造形式です。 ロンドンで近年竣工し、話題を呼んでいる ノーマン・フォスターのセントメアリー・アクスビル(Swiss Re)も同様の斜め格子構造です。 斜め格子は、その斜め材が、床などの荷重を支持する柱として作用すると同時に、 図1のように床と一体になって三角形のトラスを形成するため、水平力に抵抗するブレースとしても作用する、 非常に効率的な構造です。(図2) いいことずくめのように思えるナナメ格子ですが、この構造、日本で用いるには、ある大きな欠点を持っています。。。 ■ガチガチのトラス、「柳に風」のラーメン このように斜め格子は、三角形を構成するトラス構造であると言えます。トラス構造は、 その対極であるラーメン構造 -曲げモーメントで抵抗- と比べて、部材の軸力で抵抗するため、非常に剛性が高い:変形しにくい構造です。 (図3) 「建物が変形しにくいってことはいいことじゃないか」 地震が起きたとき、建物はそれに応じて地震による力を受けます。 つまりトラス構造としてしまうと、建物に大きな地震力が生じてしまい、それに頑丈に耐えなくてはならないのです。 逆に、ラーメン構造のように建物が柔らかいと、作用する力は少なく、設計は楽ですみます。(図4) これは俗に言われる「柳に風」のしくみで、 風が吹いてもフニャッとしなることで力をかわしているのです。 日本の超高層の大半がラーメン構造で設計されているのは主にこのためです。 ■免震装置が可能にしたデザイン このように斜め格子のプラダビルでは大量の地震力を受ける可能性が生じてしまいました。 しかしこれの打開策として、建物の最下部に免震装置を設けることにより、その危険を回避しています。 免震装置は周知のように、簡単にいえばゴムのように柔らかい材を建物にはさむことで 地震の力が建物に作用しないようにするものです。 これにより、建物上部構造への地震の力を小さくし、設計を容易にしています。(図5) 逆の見方をすれば、本建物は、免震装置を採用することによって初めて、 日本で実現させることができるデザインだと言うことができるでしょう。 ■ヘルツォークの発展、JSCA賞 プラダビルはその特徴的な形態により、竣工と同時に衝撃的な話題を呼びました。 ヘルツォークはもともと、表層のデザインが得意でしたが、本ビルでそのデザインを新たに発展させました。 それは、これまでは本当に”表層的なデザイン”:あえて言えばグラフィカルなものでしたが、 本ビルではそれを構造と一体化させ、しかもそれを内部空間へも密接に投影しています。 また、本ビルを構造設計した竹中工務店の中井政義氏は、その功績により日本構造技術者協会:JSCAの作品賞を獲得しました。 |
図1.斜め格子の構成 ひし型の斜め格子は、床と一体となって三角形を構成し、トラス構造となる。 セントメアリー・アクスビル 図2:斜め格子のはたらき A:鉛直力に対しては、斜めの柱として作用する B:水平力に対しては、ブレースとして作用する 図3:トラス構造とラーメン構造 A: トラス構造は剛性が大きく 水平力に対して変形は小さい。 図4:建物に作用する地震の力 A: トラス構造は剛性が大きいため、 図5:免震装置の効果 免震装置により、トラス構造であっても、作用する地震の力は小さくなる。 ※プラダビルでは免震装置は、地下室の下に設置されている |
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Prada Aoyama Tokyo
文字通り Pradaのモノグラフ。HerogとMeuron、両氏が執筆しており、スケッチ、検討模型、図面、
写真などによりプラダビルの初期案から完成まで
のすべてが詳細に記述されています。(特に施工時写真は豊富!) 日本購入版には日本語の要訳の冊子がついている。。?ようです(未確認) |
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'05/05/01 更新 |