東京国際フォーラム ガラスホール

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巨大ながら繊細な、ガラスの「恐竜」 ラファエルヴィニオリ / SDG 他
Tokyo Intl. Forum Glass Hall / Rafael Vinoly / SDG

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東京フォーラム・ガラスホールの屋根は、恐竜や船底を思わせる、巨大なものですが、 細部まで丁寧にデザインされた、日本を代表する建築構造物のひとつです

■船底を思わせる大屋根

本建物の見どころは何といっても、恐竜の骨や船底を思わせる、ガラスホール屋根の巨大な構造です。

ガラスホールはレンズ型の平面をしており、船底状の大屋根構造が両脇のたった2本の!大柱で支持されています。

大屋根はメインアーチ、サスペンション(吊り)ケーブル、そして船底を形成するリブなどから構成されます。(図1)

本構造はパッと見は複雑ですが、大局的に大きく見ると、図1のように 片持ち梁付き梁のモーメント図を元にした構造であることがわかります。

まず、屋根ガラスの重量は、規則的に配置されたリブが受けます。 次にこの重量は全てのリブを貫くホール長辺方向の2本のメインアーチへ伝えられます。 そして最終的にアーチは巨大な大柱へ重量を渡します。

アーチは荷重を受けると外向きのスラストを発生させますが、 これと反対向きのサスペンションケーブルを配置し、 スラストを打ち消しています。この構造形式をサスペン・アーチ (suspension-arch)といいます

図1.ガラスホール屋根構造の概形(上)と
片持ち梁付き梁のモーメント図(下)

a:メインアーチ   b: サスペンションケーブル
c: 船底を形成する無数のリブ d: 2本の大柱 
梁のモーメント図は引張側に描画するが、 本図と引張材のサスペンションケーブルの配置は完全な一致を見せている。 またアーチ配置はこれの反転となっている。

■地震力への抵抗

屋根をどう支えるかの次は、日本ではアタマ悩ます地震の問題です。 屋根の地震時ヨコゆれ力を地面まで伝えなければなりません。

これに対し、ガラスホール片側には会議室などの比較的クローズなブロックがあるのでこれを耐震的な拠り所: 耐震コアとし、柱途中で地震力(水平力)をここに流すことにしました。(図2,3)

そのために会議室廊下の床を三角形状にして大柱をガッチリつかみ、地震の力をコアへ流しています。

なお、この三角の床は、建築的にはアトリウムを見下ろす、 一種のはね出しバルコニーのようになっています。

これにより柱の片持ち長さは大幅に減り、合理的な設計となります。

即ち、地震時に柱にはコア床レベルまではモーメントが生じますが、 後は下に向かい減っていくので細くでき、鉛直力のみ負担できるようにしておけばよいのです。

耐震コアは、開口(窓)などがあまりないため、 鉄骨ブレースを壁面に必要だけ入れて、強固な箱状の構造としています。

図2.地震力の伝達(立面)と
横力を受ける片持ち柱のモーメント図

図3.地震力の伝達(平面)

a:大柱をつかむ三角床 b: 耐震コア  c: 大柱 

地震による柱の水平力を三角床を介して耐震コアへ伝える

このように地震力をコアで負担させるやり方は、しばしば行われる方法で、 ちょうどこのバレリーナのようなものといえます。

即ちコア:男性が黒子となってしっかり支えることで、 柱:女性はゆれなどの悩みから開放され、後は優雅に舞えばよいのです。

■ガラス壁面:構造要素を建築的に昇華

会議室ブロックと反対側は完全なガラス壁面になっています。これはどうしましょう?

まずガラスが受ける風圧力は、ケーブルトラスを設けて対処することとしました。

しかしガラス壁は高すぎ、全長分をスパンさせるには長すぎます。 よって途中に2つの水平梁(トラス)を設けて、壁面を3分割し、 ケーブルはこの間をスパンさせました。(図4)

この水平梁は、ホールを回遊できるスロープ:空中回廊となっています。
水平梁が受けた力はホールをヨコに飛ぶ水平束でコアへ伝達されます。

また地震時には壁面が左右に揺さぶられます。これに対し、V字型の水平ブレース :空中ブリッジを設け、水平力をコアへ伝達します。(図5)

このように、本建物では、必要となった構造エレメントが魅力的な建築エレメントに昇華されているという、 特筆すべき特徴があります。

図4.ガラス壁面のケーブルトラス

a:ケーブルトラス b:水平トラス 
c:水平束 d:空中ブリッジ 
水平トラスはガラス壁曲面の全面に渡って設けられる

図5.ガラス壁の地震力の伝達

ガラス壁のヨコゆれの力はV字水平ブレース: 空中ブリッジを介して、やはり耐震コアへ伝達される


■バブルが産み落とした建築構造の粋

東京フォーラムは巨額の税金(1640億!)を投じた公共施設ゆえ、様々な批判、議論を呼びました。

最も痛烈だったのは磯崎新氏で、氏はフォーラムを指して 「東京都の粗大ゴミ」と呼びました

また建築的にも、過剰なまでの構造表現主義や、 なぜ、わざわざ長辺方向にスパンしなければならないのか、という点もあります。

これらの批判もあるものの、やはり本建物は、知力を結した、 独創性のある、細部までデザインされたハイクオリティな建築(構造)であることは間違いありません。
(一般的に大規模施設は大味になりがちなものです)

もし仮にガラスホールを、ヴィニオリから「これ、構造やってくれ」と頼まれたとしても、 力の無い技術者だったら、太い柱-梁でどうにか屋根、壁を支えて、何とか光は入るようにしました! という、泣くに泣けない悲しい結末になっていたかもしれません。

この批判は少々歪曲して伝わっており、 建築デザインそのものをゴミといったわけではない。
詳しくはこちらのサイト。

フォーラムは日本のバブル経済が産み落とした巨大建築のひとつですが、ほぼ同時期のアラップによる 関西国際空港と並び、 巨大ながら繊細な、日本の現代の建築構造の両雄ということができるでしょう。

もっと詳しく >>
1:サスペン・アーチ   
2:リブは何のため?

関連リンク

Rafael Vinory

フォーラム建築設計:ラファエル・ヴィニオリ

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渡辺邦夫氏 率いるSDG

東京国際フォーラム

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新旧織り交ぜたこれらの実現作の紹介に加え、 PCの実務的な設計方法も記述されている点が素晴らしい。PC建築が得意な構造家:徐光氏が執筆協力しています。

"PC"に引っ掛けた書名がお茶目。

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