吊り橋のタワーがアーチ状 | I. M. ペイ/レスリー・E・ロバートソン / 滋賀 MIHO MUSEUM footbridge / I.M.Pei/Reslie E Lobertson / Shiga |
photo:MIHO MUSEUM |
MIHO MUSEUM は、滋賀県の山中に立つ私設(個人所有!)の美術館です。 桃源郷 = シャングリラをコンセプトとしています。 設計はルーブル美術館のガラスピラミッドで知られるI.M.(イオ・ミン)・ペイ氏。 美術館への訪問者はまず、玄関となるレセプション棟に入ります。ここから、山中にある美術館棟までゴルフカートのような電気自動車に乗って アプローチします。 途中、薄明かりのトンネルを抜け視界が開けると、突然!深緑の谷をスパンするダイナミックな連絡橋が現れます。そして、 その前方には目指す美術館が近づいてきます。 この連絡橋について見てみましょう。 | |
■モーメント図を再現した形態 | ||
本ブリッジは、ケーブルとアーチによる斜張構造部と、アウターケーブルにより床下面を補強された部分: いわゆる張弦梁部の2つから構成される混合構造です。(図1) 全体の形状をマクロ的にとらえると、図2のように 梁のモーメント図を忠実に再現した形態であることが分かります。 構造形態を、そのモーメント図の形に近似させると経済的にすることができ、
これは構造設計の基本中の基本です。
■斜張構造部 斜張部は主塔:タワーをアーチとしていることが最大の特徴です。 吊ケーブルをアーチへ定着することで、アーチは主に鉛直方向力を受けます。ケーブルが何本も定着されるため、 ほとんど等分布荷重を受けているのと同じです。(図3) この状態の時、アーチは最もその威力を発揮します。すなわち部材に曲げモーメントを生じず、 軸圧縮力のみで荷重を基礎まで伝えますから断面は小さくて済み、非常に経済的となります。 バックステイとなるアーチ後方のケーブルは最終的にはトンネル内のRC壁体へと固定されています。 ■ケーブルの張力調整:ギターのチューニングのように 施工時の吊ケーブルの張力管理は非常にユニークな方法で行われました。 これは、一般的にはひずみゲージなどによることが多いのですが、本橋においては、 あたかもギターやバイオリンを奏でるようにケーブルを弾き、 その音色:発生周波数を知ることで張力が調べられました。 ■ VISUAL EFFECT |
図1:概形図 a:斜張橋部と主塔アーチ 図2:側面図概形(上)と、ピン-固定梁のモーメント図との相似(下) 図3:アーチの正面図 アーチは等分布荷重を受け、 |
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本ブリッジは、構造的要求から見れば、図4 の2本の塔の案でも良かった訳です。 しかし、本アーチ案とすることにより訪問者への視的効果: VISUAL EFFECT、デザイン性は圧倒的に高められます。 また吊ケーブルの角度が、アーチとの取り合いで少しずつ変わることで、ねじれた立体的な配置となり、訪問者の目を楽しませます。 さらに、アーチであることで、あたかも美術館へのエントランスゲート をくぐるような、一種のイベント性までも加えられます。 しかもアーチであることで構造合理性は全く損なわれていません。 いいことずくめと言っていいでしょう。 ■張弦梁部 張弦梁部は、中央に一本、支柱を立てたシンプルな形態です。 床面の下を補強するこの形態は、建築では屋根などに用いられ一般的ですが、橋梁の場合、 下部交通:船または車のクリアランスの妨げになりますので、あまり用いられないようです。 ■コロンブスの卵 斜張橋の主塔をアーチとすることは、このようにご説明を受ければ、 「なーんだそういうことか」と思われるかもしれません。 しかし、実際これを無の状態からから思いつき(創造し)、
実現させることが出来るかとなると別問題です。
真のクリエイティビティ(創造力)を持つ者のみが可能な コロンブスの卵ということができるでしょう。 |
図4:直立のタワーを用いた代替案 |
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'05/05/15 更新 |