地面から生え出た「カーズ」 | レンゾ・ピアノ B.W. / オブアラップ / ニューカレドニア、ヌメア Jean Marie Tjibaou Cultural Centre Renzo Piano / Ove Arup / Noumea,New Caledonia |
photo © Kari Silloway / galinsky.com |
ニューカレドニアの複合文化施設:チバウー文化センターは、 ジャングルから自然と生えてきたかのような、植物を思わせるオーガニックな建築です |
■独立運動の記念 オーストラリア南西に浮かぶ小島:ニューカレドニアは、若いカップルなどに人気の観光地です。 本島は、今もフランスの植民地なのですが、本施設はそのフランスからの独立運動の指揮に立ち、 '98年に亡くなったジャン・マリ・チバウーを称え、建設されたものです。 施設は先住民の民族芸術の展示スペース、マルチメディア図書館、カフェ、会議室などを含む、複合文化施設です。 |
図1. カーズ概形(1/2を図示)
ペア柱は中央ほど高くなっている。 図2. A-A'断面 図3. B-B'平面:
ベルトトラスはペア柱が平面的に回転するのを防ぎ、またシェルがゆがむのを防ぐ(ダイヤフラム効果)。 |
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■カーズp> 目を引くのは木材で作られた幾つものカーズ(Case:仏語)です。 英語のhatを意味します。かの地の伝統的な住居: わらぶき小屋をイメージソースとしたものです。 その形状は、ほぼ円形で、足元が狭くなっており、ちょうどハクサイやパイナップルを、 上部をナナメに切り落としたようなものとなっています カーズ外壁には、2つのペアの柱が円形状に立っています。ペア柱の内側はまっすぐであるのに対し、 外側はカーブして最下端は内柱位置まで曲がっており、これにより建物の特徴的な形状が与えられています。 これらの柱の内側にナナメに、楕円形のガラス屋根が架かっています。 ■立体的なシェル構造 ペア柱の足元はピン接合のディテールとなっています。 これだと今にも柱は倒れてしまいそうに思われます。(図2) しかし実際は、各フレームを鉛直ブレースでつなぐことで全体が
立体的なシェル構造として働くので、倒れることはありません。
(図1)
またこのペア柱の要所に水平にベルトトラスと呼ぶトラスを設け、 柱が回転変形することと、シェル全体がゆがむのを防いでいます。 (図3)、 (写真3) ちなみに先ほどの斜めの屋根面に水平ブレースを設けると、上記の変形拘束効果(ダイヤフラム効果)
をカンタンに得ることができます。
しかし、これだとブレースにより屋根ガラスの透明性が損なわれるため、その案は採用されませんでした。 このように、デザイン性のために効率的な構造方法を捨てるのも構造デザインでは重要なことです |
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■自然換気:ダブルレイヤーによる煙突効果 本施設設計の主要な要素はサイクロンによる強風でした。
本施設は海へ突き出た半島に立ち、その片側は太平洋(外海)、反対は半ば湖のようなサンゴ礁
(内海)にはさまれています。 また本建物の設計の大きなテーマは、空調機械に頼らない、自然換気により快適な屋内環境を保てる建築を作ることでした。
これより、設計者は、可動ルーバー及びペア柱により作られる空気層を用いて、あらゆる外気状態に対応できるようなシステムを考えました。
本建物の形状は、この自然換気を達成できるような形状として計画されたもので、構造はいわば後追いで、この形状が成立するように計画されたものです。 空気の流れから建物の形が決まった、というのは非常にユニークであり、 これは同じくピアノ設計の関西国際空港※と同じ手法です。 |
図4. さまざまな外気状態に対するルーバーモード
ペア柱内側位置に可動式ルーバーが設置されており、これの開閉を制御することで
さまざまな外気状態に適応できる内部環境を生成できる。 |
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■地面から生え出たかのような。。 改めてカーズ全体を見ると、その姿はジャングルに見事になじんでいます。 まるで地面から生え出てきたかのようです。 (写真2) もしこれがコンクリートの、四角いオフィスビルのようだったら、 ジャングルにスーツ姿のサラリーマンが立っているかのように(^^;)、思いっきり場違いであったことでしょう。 空調に頼らない屋内環境を作るために、いわば理詰めで作り出した建築ながらも、 最終的な形態は、ピアノのフリーハンドスケッチがそのまま実現したかのような、 植物を連想させる有機的形態に仕上がっています。 |
関連リンク |
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ピアノ氏の公式サイト |
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チバウー文化センター オフィシャルサイト |
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'06/02 upload |