老練!クリスチャン・メン

スイスの”ブリッジ・マスター” Christian Mennクリスチャン・メンの作品集が発売されました

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どの世界にも「手練(てだ)れ」「生き字引」「virtuosoバーチュオーソ(巨匠)」 などと呼ばれる熟練の老人がいるものですが、「ブリッジデザイン」ならこの人。。。Christian Menn クリスチャン・メン氏です。

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メン氏は1927年スイス生まれ。御年89歳。スイスの名門大学:チューリッヒ工科大学、通称ETH(エーテーハー)を卒業。

その後、NYのジョージ・ワシントン橋を設計したオスマール・アンマンや、イタリアの巨匠、ネルヴィの事務所などで修行。

修行後は’71-81まで自身の事務所を構えて数々のコンクリート橋を実現。その後、母校ETHへ戻り、同校の教授に。それからは主にコンサルタントの立場で数々の橋梁設計に携わっています。

スイスの構造エンジニアとしてはロベールマイヤールが有名ですが、メン氏は若き頃、まさにそのマイヤールの影響をモロに受けて修行したそうです。

スイスはアルプスで代表されるように山あり谷ありの急峻な地形。そんな所に道路網を張り巡らすには嫌でもトンネル、橋梁を架けることが必須。国家的課題です。

その結果、多くの優れた技術者を輩出することになったのかもしれません。

alps2.bmp

上の図で想像出来ますが、その橋梁は深い谷から高~いタワーを立てねばなりません。

このような状況でどのような形式が良いか研究したことでしょう。

その研究結果とも言える、メン氏が広く知られることとなったきっかけが

「ガンター橋」です。

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桁はゆるやかなS字を描くカーブ。

床上のタワーが低い斜張橋で、エクストラドーズド橋とも呼ばれます。

3角板のなかに吊りケーブルが納められており、いわばケーブルをコンクリートで覆っている状態。

これによりケーブルをゆるく曲げることができ、路面にケーブルがかぶらないように対処しています。

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蛇足で私ごとですが、約20年前に「建築視察旅行」で本橋を訪れました。

しかしその時は価値が全く分からずじまい。

完全にブタに新宿 真珠、猫にこんばんは 小判でした。

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ゴツゴツした山々のなかにスックと立つタワー。見事なコントラスト。

屈強なラガーマンたちの中に美人が1人立っているかのようです。

ACOMM.jpgのサムネール画像

        は・じ・めての・ア ● ム ♪


さて、一旦CM入りましたが、次はガンター橋を発展させたとも言えるサニバーグ橋

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本橋の技術的見せ場は幾つかありますが、そのひとつが、これだけ長い橋なのに桁面にエキスパンションジョイント(以下EXP.J)が全く無いこと!

通常、このように桁が長い場合、太陽の直射日光を受けて橋自体が熱膨張(=熱応力)するため、その伸びしろを吸収できるように収縮継手=EXP.Jが必要です。

下図の左、一般的な真っ直ぐな橋の場合、熱膨張すると橋が伸びて両端の基礎を押さえつけるためEXP.Jが必要です。

しかし下図右、本橋のように、桁面がカーブして平面的にアーチ状になっている場合、桁が伸びてもただ単に横に風船のようにヨコに膨らむのみです。

このおかげでEXP.Jが不要なのです。

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近年では割りと知られたこのテクニック。でっかいアーチが横倒しになったようなもの。恐らくメン氏がこの時に「発明」したのでしょう。やはり老練な手練れの技師。タダ者ではありません(*O*)


渓谷を渡る本橋。冒頭の図で述べたように、橋を渡るとすぐトンネル。これら2つ:トンネルと橋はほぼ同時期に作られました。

それでトンネルを掘る際、橋を先に作って、トンネルで砕いた岩を本橋を通って捨てに行こう、という計画に。これよりトンネルより先に橋を完成させる必要がありました。ズイブン豪華な「搬出路」ですね~

さて、無事、本橋が完成するやいなや、砕いた岩を目いっぱいに満載したトラックがその道路上をバンバン疾走!積載荷重イッパイ!?

何とも手荒い「竣工祝い」ですね(*O*)

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本橋ではアドバイザー的立場で関わったメン氏。さぞやタップリの報酬をもらったことでしょうね~。。。(^^;)

ヤらしいハナシ。。センセイ。。いかほどだったんでしょう。。?

「こんときはタダだったんじゃ」 

(口調は著者推測)

へ! タダ!ですか? Σ(゚д゚;)

マジ!?スゲー! ホンマでっか!?センセー!

なんで。。? その理由は。。?


元々は本橋、数社によるコンペで、メン氏は審査員でした。

しかし余りいい案が出ず、参考までに、と審査員のメン氏が自ら案を出した所、発注側の担当氏が

「センセー!これマジ良くないスか。

やっぱ神ッスね。もうこれで行きまっしょーよ」

      とドイツ語で絶賛。

コンペに残っていたチームがこれの実施部隊、メン氏はスーパーバイザーの立場に。

そんな経緯があったことから報酬を辞退したそうです。

「元々審査員だったのにワシがヨコからでしゃばってスマン!」

 と仁義を通した形に。

しかし「金銭的報酬」こそ無かったものの、後に「社会的報酬」=賞賛、名誉、賞などを無数に受けることに。

いいもの作れば必ず返って来るんですね~


本橋はメン氏が学んだマイヤールの傑作:「KING OF RC BRIDGE」のサルジナトベル橋のすぐ近く。23kmしか離れていないそう。これより世界中のBRIDGE マニアが2つを日帰りで回って楽しむそうです。

次のこちらはChandolineシャンドリン橋。タワー2本の斜張橋です。

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この橋もセンセー、お気に入りなんスかね~?

「ワシャ~これが大キライなんじゃ」

へ?そうなんすか?(°△°)

実は

■(桁下の)橋脚は丸断面なのにタワーは四角で、美的連続性がない

■タワーの上の方が太い

というミスをやってしまったとのこと。

この近くを通るときは何とわざわざこの橋をよけて回り道するとのこと!

「こん時はワシャ~忙しかったんじゃ」ですって。

新入社員の眠たい言い訳みたいですよ。センセー。

巨匠でもそんなミスをすることがあるんですね~(*O*)

なんか逆に親近感。


最後はこちら。アメリカ北部、ボストンのもの

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「BIG DIG (巨大な穴掘り)」と呼ばれた、かつて無いほどの巨大な規模のインフラ計画の一環。

こちらの橋、

■川を通る船のため桁下制限 ■景観上のタワー高さ制限

■周辺の交通を妨げずに施工 ■地中の杭を地下鉄の影響の及ばない所に

など制約条件ありすぎ! それらがスパゲティのようにこんがらかっており、まず整理するだけでもタイヘン!しかも車道10車線を吊るというデカイ橋!

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タワーは逆Y型。床桁はタワー間:メインスパンは鉄骨+軽量コンの合成構造で軽くし、バックスパンはそれへの重しとなるよう現場打ちコンクリート床としています。

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ケーブルは中央側:メインスパンは桁の外側を吊り、バックステイ側は一直線に桁中央を吊っています(左写真)。

更にこの写真で分かるように写真左側にはケーブルの外に2車線があります。しかし右側にはそれがナシ!つまり非対称断面、非対称荷重!

センセイ、そんなの支えられるんですか~?(°0°)

「だからタイヘンだったんじゃよ(>_<)」

例えば、重量の重心が中央にないため、床はヨコ:左図だと右側へ動こうとし、これがタワー脚部への常時の横力となってしまいます。

また、メインスパンはケーブルで斜めに吊り上げているため、その水平反力のため床桁は常に圧縮されていますが、外側2車線部分は片持ちで出ているだけなのでその力はありません。これにより、床の長手方向の縮み量に差が出る恐れがありました。

よってこれを避けるため、2車線部分にはプレストレスが入れられ、メインスパン部と同じ圧縮状態となるように人工的に操作されました(下図)。

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所でクリスチャンメン氏と言えば、次のようなエピソードがあります。

氏の「弟子」についてです。

今から約35年ほど前。氏の本拠地のチューリッヒで、ある国際学会が開かれることに。この時、氏は新しいタイプの橋梁(今で言うエクストラ~橋)を発表しようと考えていました。

その際、氏は当時の大学の「助手」にタワーのスケッチ案を幾つか出すように命じました。

下記がそのスケッチ。なんか見覚えのあるテイストのスケッチですが。。 。

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で。。その「助手」とは。。? 

今をときめくブリッジデザイナーなのですが。 。

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そう!サンティアゴ・カラトラーバ!

メン氏もその時の助手がこんなに大化けするとは思っても見なかったでしょう

下記は同時に作られた模型。

今のカラトラバにくらべると。。むむ。。若干、ぎこちなさが。。(^^;)

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カラトラバも若い時は。。そうでもなかったんですかね~。 

なんだ。 ちょっと安心。

マイヤール – メン - カラトラーバ、と、スイスのデザインマインドが脈々と受け継がれているというのはタイヘン興味深いことです

(カラトラバの本拠地もチューリッヒ)。


さて、今回の本の中身ですが。。

大判の作品集で、撮りおろしの写真が非常にキレイ(*o*)

スイスの深緑に彫塑的なコンクリートが映えています。

文章はモチロン、メン氏自身が。

プロジェクト概要と、技術詳細の2本建てとなっており、非常に親切。

またドーハでのコンペ案や、3kmクラス長大橋の研究案なども。

1.1万円と、ちょっとお高いですが「写真集」「技術資料」の2つを1つにまとめたお得感!

ま~会社の経費で買ってもらえばいいか~  ヾ( ´Ω`)ノ ファ~ 

ダメダメ。身銭を切らないと身に入らないですよ。  ヾ(^^;)


「もうワシが橋を実現することはないかもな~ハッハ!」

というメン氏ですが、もうしばらくは

「やっぱワシがもうちょっとやらんとダメかのぅ~」

とばかりに我ら若輩どもに「ご指導」お願いしたいものです。


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