ぶったまげた(゜□゜) (1)

トツゼンですが皆さん、アイデア発想法はどうやってますか。

アイデア出し。。難しいですよね。

idea.JPG

今日は「こりゃースゴイ!ぶったまげた」っていう力学のアイデアをご紹介します


まずひとつ目。

トツゼンですが以下のような建物があったとします。

1スパンの建物。トラスで柱-梁が組まれており、そこから建物が吊り下げられたような構成となっています。

2-ヒンジ門型フレーム(ラーメン)と言えます。

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建物本体が吊り下げられているため、建物内には構造体が全くない状態になっています。

下は概略の形状図(アイソメ)で、図の赤線部がトラス。

外フレーム構造と言えます。

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ちなみにこのようなものを外殻構造(exoskeltonエクソ・スケルトン)といいます。エビやカニのように建物の外側に構造体=硬い殻があり、それが内臓を守っているものです。


さて、ここで問題です。

このような状態では梁のモーメント図は下記の赤線のようになります。中央付近、緑の点線部は下引張、上圧縮です。

トラスの下弦材は建物部にくっついているので座屈の心配はありませんが、上弦材は先程のアイソメより宙を飛ぶような状態ですので、座屈の恐れがあります。

座屈止めを入れなければなりません。

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「座屈しない太さにすればいいじゃん」

まあそうですね(^^;)しかしそれじゃ芸がない。

スマートとは言えません。それにズイブンな太さになります。

ちなみにそのようなやり方を「ノーアイデア設計」「力ずく設計」といいます。ちょっと言い過ぎたか。

“dull solution”とも言います。dullダル とは意味のない、とか、つまらない、と言った意味です。ダルい。(^^;)

では空中を飛ぶ上弦材の座屈止めをナシに出来ますでしょうか?

それがコチラ

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梁の中央をピンにしたものです。これならば梁の上弦材は全て引張り。よって座屈止めが全く不要です。片持ち梁が2つ向き合った状態、3ヒンジフレームとも言えます。

オレ、アタマいい!(^▽^)ノ

「いや、風吹いて吹上が起きたら全然ダメっしょ(゜3゜)」

あ、そうか。

おっしゃる通り、吹上が起きたら上記の応力が完全に逆転しますので上弦材は逆に全部圧縮になってしまいます。

あちゃ、オレ、やっちゃった(>_<)

じゃあどうすればいいでしょうか。

そもそもこれを満たすものなんてあるのでしょうか。

これを解決した人がいます。しかも約40年前に!

それがコチラ

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コチラはイギリスの構造エンジニア、アンソニー・ハントが1980年に設計した建物、Patera building パテラ・ビル。

注目は中央のところ。なんか抜けてるようになっていますが。。。

これのクローズアップがコチラ。

上弦材の一番中央はロッド(丸鋼)が2つつながれたもの。

それぞれのロッドの端部は回転可能なピンで接合されています。

これがどうなるかと言うと。。。

hunt2.jpg

通常時=長期、常時つまり下向き荷重時は、ロッドに圧縮力が働くと、ピンでつながれているため緩んで、垂れ落ちてしまいます。これにより以下の、中央ピン、片持ち梁が2つ向かい合った状態となります。これより上弦材は全て引張りで座屈止めは全く不要です(3ピンフレーム)。

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次に強風時に屋根に吹上力=上向き荷重が働くと(上図)。。。。

垂れ落ちていたロッドに引張力が入り、1本の連続的な上弦材のように働きます。

これにより、両端固定の1本の梁となります(2ピンフレーム)。

つまり長期と強風時で梁の構造モデル=働きが違うということ、しかも特に高価な材料も使わずに!

スゲー!ぶったまげた!

(゜□゜)

なお先の図で、風圧時の緑点線部=上弦材の両端は圧縮ではありますが、

■長期の片持ちモーメントと相殺(キャンセル)させることができる

■風圧=短期なので座屈耐力も上がる

■仮に座屈止めが必要であっても梁端なので中央に座屈止めするよりズイブン楽

などの利点があります。

梁の中央に。。ちょっとした仕掛けをすることで。。2ヒンジと3ヒンジに変わる構造体にしたのです。 

こんなのよく思いついたね~(゜0゜) どうやって?


下記は上記を踏まえて改良した私のアイデアです。

ガラスの方立て、マリオンが鉄骨トラスの場合です。

屋内側=ガラスの反対側の最外端2本と、中央を引張材にしたものです。

正圧=外からの風圧力に対してはトラス最外端の引張材がゆるみ単純梁状の応力状態となります。トラス弦材はガラス側のみが圧縮です。

負圧=ガラスを吸い出す方向の風圧力の場合、中央の引張材がゆるみ、片持ち梁が2つ向き合った状態となります。この場合もトラス弦材はガラス側のみが圧縮です。

私の案では最外端2本も引張材にしたのですが、そのことによりアンソニーハントの案に比べ、正圧の場合でもガラスと反対側には圧縮が生じない改良案となっています。

アンソニーの案ではトラスは柱とともにラーメンを構成しています。柱トラスと剛接合になっている必要があり、そのため私の案のように端部をピンにするわけには行きません。

私の案ではラーメンではなく単なる1部材=小梁の場合であり、それがプラスマイナスの逆方向の力を受ける部材の場合にこのような案が使える、となります。

下図のように正圧、負圧の両方に抵抗できるように中央支柱の両側に対称にケーブルを張ったマリオンがありますが(フィッシュボーントラスと言う)、上記の私の案では下図で言えばガラスの内側(右側)のみで対処でき、いわば半分のみで済む、となります。


アンソニーハントAnthony Huntはイギリスの老練な構造エンジニア。既に引退しているようですが日本で言うところのかつての木村俊彦氏のような人でノーマン・フォスターやリチャードロジャーズなどに引っ張りだこだった方です。

有名な作品としてはロンドンユーロスター駅=ウォータールー・ターミナルなどがあります

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なおこのウォータールー駅は3ヒンジアーチのモーメント図のとおりにトラスを組んだ構造で、圧縮側は太いパイプ、引張側は細い材としています。

さらに圧縮材=圧縮側に屋根をつけることで座屈補強しています。

ハント氏には

「圧縮材は屋根にくっつければ座屈を考えなくていいんだ」

との信念があったのかもしれません。

この屋根も風の吹上のときは先の例のように力が逆転するはずですが、それでも引張側は細い材で済んでいるということは吹上時の圧縮力は微小なのか、そもそも屋根が重くて圧縮にならないのでしょう。


ウォータールー駅はロンドンーパリを結ぶ新幹線=ユーロスターのロンドン側の終着駅。

ついでですのでこのウォータールー駅についてのエピソードを。

このWaterlooウォータールー(仏語読みでワーテルロー)。パリっ子にとって苦い思い出が。それは「ワーテルローの戦い」!

Battle_of_Waterloo_1815.PNG

1815年、かのナポレオン率いたフランス軍がイギリス、オランダなどの連合軍とオランダのワーテルローで激突!

激戦でしたが結局フランス軍は破れ、ナポレオンにとっても最後の戦闘となりました。

ナポレオンはその後セントヘレナ島へ島流しとなり、程なく生涯を閉じることに。フランス市民にとっては苦い経験に。

ナポレオンは傷ついた戦士、市民に「ワーテルローのことは忘れろ」と言って慰めたと言います。

(下図、白ズボンがナポレオン)

Napoleon_returned.jpg

さて時は流れて現代。

前述のように1993年、ユーロスターの英ー仏間が開通し、ロンドン側はオランダのそれに因んで名付けられた「ウォータールー駅」が終着駅に。フランス人にとっては思い出したくもない地名で、嫌われていました。

しかし2007年、英仏海峡トンネル連絡鉄道会社=イギリス国内の高速鉄道の全線開業に伴い、ユーロスター終着駅はウォータールー駅からセントパンクラス駅に移転、ウォータールー駅はその役目を終えることに。

これに喜んだのがフランス人。

ワーテルロー、思い出すのもイヤだったんだよ~。良かった良かった。ざまーみろ(言い過ぎ)

その気持を掴んだのか、広告会社が作った、ロンドン側駅移転の広告がコチラ。そう、あのときの言葉。

「ワーテルローは忘れろ!」

obliz.jpg

1815-2007間の、192年掛けた天 丼

「ワーテルローのことはわとぅれろ~!」ってことですね。

く、苦しい(><)

苦しいダジャレはワーテルロー同様、忘れてもらって。。(^^;)

そんなことで建築的には素晴らしいウォータールー駅ですが、たった14年でお役御免、今はがらんどう、置き去りにされています。


ちょっと長くなりました。

もう一つ、素晴らしいアイデアを紹介しますが次の記事にします


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