ニューヨークに建築界を揺さぶる建物が建設中です
本記事はコチラのサイトより。
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「NYは間もなく世界で最も革新的な建築を授かるだろう
21世紀のイベントスペースがどうあるべきかを再定義する建物を」
建築ジャーナリストがそのようにベタ褒めする建築が建設中です
Diller Scofidio + Renfro ディラー・スコフィディオ+レンフォの設計のThe Shed 「シェッド」がニューヨーク、マンハッタン西部の再開発地区:ハドソンヤードで建設中です
「シェッド」とは「覆い」を意味します。
ハドソンヤードはマンハッタン西側にあり、かつての貨物列車の操車場だったものを大、再開発するもの。
同社のエリザベスディラー氏は「本建物の設計に当たり、次のような疑問につき当たった。それは、21世紀、そしてそれから先のアートはどのようなものになるだろうか、と。
それへの答えは分からなかったが、確かなのは違った高さ、違ったサイズの空間が常に求められることだ」
結局、これへの回答は「インフラ(=基盤)の建築」だったとのこと。
本建物を構成するのは次の2つの要素です
ひとつはBASE:ベース=基地と呼ばれる建物で各階に展示空間を内包する、いわゆるビル状の建物。下記断面図で左側。
そしてもう一つの構成要素こそが本建物の主役。
本建物の名を冠する「シェッド」。上図右側。
着席時max1250人、スタンディング時3000人のキャパ。
このシェッドは普段はベースの上に覆いかぶさるように「格納」されていて、いざ出番となると直径1.8m、6つの駆動台車でコロコロとレールの上を動いてイベントスペースを構成します
可動ですから、イベントスペースの広さは必要に応じて広くも狭くもできます。このことがこれまでのホール:500人収容、2000人収容と固定されているものと圧倒的に違います。
そしてイベントが終われば再度、シェッドをスィ~と動かしてカチャッとベースの上に戻せばいいのです。
下は、ほぼ同じアングルのCGと実際の現場。
ベースにシェッドが覆いかぶさるのが分かります。
どことなくワンちゃんを思わせる、愛嬌あるお姿。
内観。
台車は0.4km/h=分速7mで動き、5分でセットできるとのこと。
シェッドは建築家に言わせると「骨と筋肉だけ」。
つまり機能一辺倒の構造物。
「骨皮筋衛門」という古い表現がありますがそんなカンジ。
巨大な1スパンラーメンですね。
骨組みは三角形のトラス構造を主体とし、そこに「ピロー(枕)」と呼ばれるETFEの空気膜が取り付けられています。
メッチャ細長い三角形。
最大で長さ20mほどあり、現在の世界最大規模。
ほぼ透明ですから内外の視線をつなぐことが出来ます。
ところで少し脱線しますが、このようなものを動かすのには一体どれくらいの力が要るのでしょうか
パスポート片手にスーツケース転がす渋谷系ギャル。
これから海外旅行でしょうか。
お澄まし顔で「これからバカンスなの~」とでも言いたげなドヤ顔です。
きっと旅行先でインスタに山ほど写真をアップするのでしょう。
いかん、なんかイヤミ言ってしまいました。
オレ、疲れてんのかな(**)
さて、その彼女。20kgは入りそうなスーツケースを一体どれくらいの力で引っ張っているのでしょうか。
一般的に、物を横に引っ張る力は、以下のようにして計算します
H=μ×W
H=ヨコに引っ張る力 Wモノの重さ
μ(ミュー)はモノと床の接触面の摩擦で決まる係数で摩擦係数と呼ばれるものです。
μはW=モノの重さの何割の力で横に動くかを表しており、例えばμ=0.5であれば、横に引っ張るには重さの半分の力でよい、ということになります。
一般的にはμが1.0、すなわちヨコに引っ張るのに物の重さと同じだけの力が要ることはまれで、μは1.0以下です。
つまり物の重さとそれをヨコに動かす力は別物なのです。
土=地盤の上に置かれた建物でさえ、ヨコに動かすには重さの半分以下。μ=0.4程度となります。
そのようにモノがベッタリ地面についているときでも半分以下。
では下に滑車=車輪、キャスターがついていたらどうでしょうか。
まず最初に、車輪がついているときの上記の摩擦係数を「転がり抵抗係数」と呼びます。
さて、ではその転がり抵抗係数は、コチラのウィキペディアによると、
・砂地を走る自動車のタイヤμ=0.3
・レール上の鉄道μ=0.00002=1/50,000!
とのこと。
特に鉄道は上記のように摩擦がメッチャ少なく、このおかげで1本何千人かの乗客を乗せてもスーっと走れる所以となっています。
動いている時はほとんど力が要らないのです。
車輪はこのようにヨコに動かす力を極端に減らすことができ、そのことから車輪は紙と並んで人類の大発明の一つと言われています。
ちなみにこれの極限がリニアモーターカー。摩擦はほぼゼロ。磁石のおかげで線路に接していないからです。
時々、TVなどで●●トンの車を動かす男!なんてのがあったりしますが、これまでの話を考えればそのカラクリが分かります。
車を動かすのにはその重さよりもずっと小さい力で済み、またそのおかげで飛行機のようなものでさえ人の力で動かすことができるのです。
また同様に、下図の飛行機をひっぱる車(トーイングトラクターと言う)や、船のタグボートが、なぜあんなに小さいのに母体を動かせるかが分かります。
ヨコに引っぱる、押す力は物の重さよりずいぶん小さいのです
余談ですが「トラクター」とは日本では農作業のアレを思ってしまいますが、元々はひっぱる車、牽引車を意味します。フランス語では引張力はtractionトラクションと言います。
なお、最初に動き出すまでは動いている間よりも大きい力が必要です。これを始動抵抗とよび、これは動いているときの転がり抵抗係数の1.3-1.5倍程度だそうです
話は戻って、今回のshedの場合でも、上記のことから、この4000トンのシェッドを動かすには「トヨタ・プリウスをちょっと上回る」程度のパワーで済むそうです。
先程の渋谷ギャルも、スーツケースを引っ張る力の具体値はわかりませんが、おそらく1キロ(=1/20、μ=0.05)を上回ってはいないでしょう。
建築家はこのシェッドを別名
「カルチャー(文化)のスイス・アーミーナイフ」
と呼んでいます
その心は。。?
カルチャーに関してならこれ一つで「何でもできる」ということ。
シェッドは多様化し続けるイベント、アートシーンに応え、これまでの建築を「過去のもの」とするでしょう。
わがままなアーティストたちは自らの表現の場であるスペースに言いたい放題の要望をぶつけるものです。
また逆に、このような可動空間=シェッドができることで、それに触発された若いアーティストは、さらなる表現を開拓するかもしれません。
シェッドとアーティストが相互作用=インタラクションを起こすのです。
シェッドはまさに建築版リアル「トランスフォーマー」となって、次世代アーティストたちの揺りかごとなるでしょう。
現況で骨組み=躯体はほぼ完成の模様。
竣工は2019、春。
こけら落としは誰でしょうか。
やっぱレディーガガでしょうか。
それともインスタ女王、渡辺直美!? (^^;)
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