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「限りなく透明なガラスの箱」 ピーターライス、RFR
La Villette Glass system / Peter Rice,RFR
写真は新生銀行(旧長銀)ガラスアトリウム
「限りなく透明なガラスファサードを・・」。建築家なら誰もが持つ夢に対し、 ピーターライスは全く新しいガラス支持工法 :DPG工法を開発しました。近年話題のファサードエンジニアリングのはしりともいえます。

■ グラン・プロジェ:ラ・ヴィレット産業・科学博物館

1980年代、当時のフランスのミッテラン大統領が指揮した パリ大改造計画:グラン・プロジェ。
ルーブル美術館、グランアルシュなどで知られています。
その中の1つとして パリ郊外のラ・ヴィレット公園内に建つ産業・科学博物館のコンペが行われました。
コンペは結果的にエイドリアン・ファンシルベールの案が優勝しました。

ファンシルベール氏は設計に当たり、 当建物に付属していたガラスの温室を、 限りなく透明なガラスの箱にしたいと考えていました。また事業主も本建物自身を、 仏の「産業・科学」力を見せつけるショーケースにしたいと考えていました。

これらより氏は当時、上記ルーブルの件などでパリでも仕事をしていた ピーターライスに協力を要請しました。

■サッシュなしでどう留める??

「ガラスを留める」、最も一般的な方法は、アルミサッシュの枠を作り、この中にガラスをはめ込む方法です。
しかし当然ながらこのサッシュが少々目障りです

依頼を受けたライスは、このサッシュを用いない(サッシュレス)でガラスを留める方法を模索しました。

このようなサッシュレスの方法としては、過去にはノーマンフォスターによる英国の ウィリス・ファーバービルがありました。
それは、ガラスコーナーをプレートではさんで留めるものでした。(図1)

これだとサッシュなしですみますが、ガラスが風圧を受けた時に、プレートのためにコーナー部が ちょうどセンベイを割るように、割れてしまう恐れがありました。

氏はこの案を踏まえながらも、この欠点を克服するため、支持部を理想的なピンジョイントにする方法を考えました。 すなわちガラス四隅に穴を明け、ここにちょうどかみ合うような金物を入れて、点(Dot Point)で留めることとしました。 (図2)

このディテールのポイントは、ロチュールとよばれる特殊ヒンジの金物で、 一種のボールベアリングのようになっているため、 ガラスは風圧を受けても、あらゆる方向に自由に変形でき、ガラスが割れる可能性が全くないことです。

■"Structural Glass":ガラスは構造体

ガラスの留め方は考えたとして、今度はそれをサッシュなしでどう支えるかを考えなければなりません。

この金物を柱などに留めてもいいのですが、そうするとガラスパネルの境ごとに柱が立ってしまい 、サッシュレスにした意味がありません。

結論として、ガラスパネル一枚一枚を何かに止めるのではなく、それらをまず金物で連結し、 これをガラス数枚おきにかかる梁からカーテンのようにブラさげることとしました。
つまりガラスそのものが、自分より下のガラスの重量を負担する構造体となっています。 (図3)

この時、ガラスと金物に若干のズレがありモーメントが発生しますが、 ロチュールのおかげで金物側のみに発生し、ガラスには余計なモーメントは一切かからない特徴があります。

図1: ウィリス・ファーバーの留め方

: ガラスコーナーをプレートで止める
: プレートによりガラスが固定支持のような状態となり、曲げモーメントが生じる
→割れる可能性がある
外観写真は N.フォスターのサイト参照
左menuよりproject>Location>右下のWillis Faber...

図2.金物詳細

a: ガラス断面 
b: ロチュール(特殊ヒンジ)
c: ロチュールを受けるガラス側の金物

ロチュールによりガラスはあらゆる方向に自由に回転できる(点線)。 ロチュールとガラス芯は完全に一致しており、ガラスに余計なモ−メントを生じさせない
ロチュールとは仏語で関節の意味

図3: ガラス重量の伝達

: ガラス重量は金物とガラス自身を介して上のガラスへ伝えられる。
梁へは衝撃吸収のバネを介して接合される(最上部)
: 金物とガラスにはズレがあり、これにより偏心曲げモーメントが生じるが、 これは金物側のみに発生し、ガラスには一切発生しない


■水平なケーブルトラス

重量:鉛直力の問題はこれで解決しました。今度は水平力:風圧です。 すなわち風圧力に抵抗する梁=耐風梁(または柱)をなんらかの形で設けねばなりません。 そうでないとまさにカーテンのようにバタバタなびいてしまいます。

結局これについては、ガラスを留めるH型の金物から水平に束を伸ばし、コレを結ぶように細いケーブルによる トラスを作ることとしました。(図4)

ケーブルは正負の風圧力:押し込み方向と吸出し方向両方に抵抗できるよう ダブル(凹凸)に配置されています。

なお、トラスの配置は構造的にはタテでもヨコでもよいのですが、ガラス面を見た時になるべく 視界をさえぎらないよう、水平に計画されました。 (写真4)


■透明なガラスの箱:DPG工法完成

このようにして、全く新しい、革新的な方法のガラスシステムが完成しました。 設計された金物のち密さは、建築というよりも、もはや機械金物であり、 ライス氏及びその協力者の技術力を見せつけています。 (写真3)



図4.ケーブルトラス

a:ガラスパネル  b:ガラスパネル数枚おきの柱  c:DPG金物   d: 金物から伸びる束
e: ケーブルによるトラス

ケーブルはガラスパネル数枚おきに配置されている柱へアンカーされる

トラスはガラスパネルごとに配置される(図示せず)


■当世ガラスファサード事情:ファサードエンジニアリング

DPGによりライス氏は絶大な賞賛を浴びましたが、他の構造家も黙っていません。 さまざまなガラス工法が研究されました。

そのなかで特筆すべきはヨルグ・シュライヒ氏のケーブルグリッドガラスシステムでしょう。
これはタテヨコにグリッド状にケーブルを張り、その交点にガラスコーナーを受ける支持金物を設けるだけのものです。

その仕組みは「テニスラケット」と全く同じで、風でケーブルがたわむ(変形する)ことで荷重を負担するようになっています。

DPGはガラス四隅の特殊な穴明けがコストアップ要因のため、近年はこれをせず、ガラスコーナーで 受ける方法が主流です

もうひとつの流れは、金物を用いず、完全にガラスだけで建物を作る、という考えです。

世界中の建築家、構造設計家がコレに取り組んでいますが、安全面から小規模なものに限られています。 ファサードではありませんが東京フォーラム:ガラスキャノピーもこの1つといえます。

ガラスファサードは、建物の内外を隔てるインターフェースであることから 構造の問題のみならず、空調他の環境の問題と 密接に関連し、ファサードエンジニアリングは、近年、 大きな脚光を浴びる人気分野となっています。

ケーブルグリッドガラスシステム
新日軽Webpageより

日本ではシュライヒ氏と親交の深い斎藤公男氏が国内向けに改良し、 MJG工法の名で商品化されている

東京フォーラムガラスキャノピー
設計:SDG,デューハーストマクファーレーン

サイドストーリー:DPG 日本上陸 >>

ピーターライスについては
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関連リンク

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東京フォーラムガラスキャノピーなどを設計


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ヴェルナーゾーベック:近年話題の、ドイツの構造設計家

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Srtuctural Glass   Peter Rice + Hugh Dutton (著)     
DPG工法のバイブル!

DPG工法について、 Rice自身が執筆した、 大変貴重で重要な、バイブルのような本。パリのラ・ヴィレット公園の温室について解説しています。

初版はフランスで出版されましたが(=仏語)、その後英国の 出版社が英訳し、さらに近作を加え加筆したものです。強く!お勧めします!

数多くの図版で金物のしくみ、力の伝達などがふんだんに説明されているため、 英語が読めなくても問題ナシ!十分理解できます。


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★★★★★
ピーター・ライス自伝―あるエンジニアの夢みたこと
ピーター・ライス(著)  岡部憲明(監訳)     
ライス自ら設計哲学を語る貴重な本

タイトル通り、ピーターライス自身による自伝。具体的な技術点よりも、 設計哲学、その他エッセイ的なものに重点が置かれたものとなっています。
原書はライスの死去後('92.10)まもなく出版されました。

師:オブアラップについて、シドニーオペラハウスでの経験、建築家とエンジニアの役割の違い、 膜、ガラス、鉄、石などの材料について  - などが述べられています。

関西空港などで協働した岡部憲明氏が監訳しています。

表紙は、月明かりで野外舞台を照らすという、ロマンティックな「フルムーンシアター」。


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New Glass Architecture
Brent Richards(著)     
最新の「ガラス建築」を特集

建築表現の重要材料であるガラス。建築家はその表現方法に腕を競います。

本書はクリスタルパレスなど、ガラスの歴史にも触れつつ、現代の最新ガラス建築をケーススタディーしています。

掲載は スティーブンホールの聖イグナティウス教会、ゲーリーのDZ銀行、 ピータークックのグラーツ、クンストハル ジャンヌーベルのバルセロナ、トーレ・アグバーなど。

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'05/07/20  更新
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